『鼓童』の太鼓

「大太鼓はなんとしてもケヤキで」と、かたくなにケヤキにこだわる青木孝夫代表の熱意に応え、10年来ケヤキの巨木を探し求めて、この春にやっと納品した鼓童の3尺9寸の大太鼓。1980年、崩壊した『佐渡國鬼太鼓座』の座長、田耕氏に鬼太鼓座の看板と3尺8寸のケヤキ製大太鼓を渡し、残った座員で『鼓童』を設立して、未知の荒海に漕ぎ出して以来の青木氏の奮闘ぶりを知っているだけに、私はなんとしてもその願いを叶えたい一心でした。そして4年前、栃木県産の直径約2mのケヤキの原木と対面した時の感動。その日から永年の悲願は現実のものとなり、原木に初めて刃物を入れる『斧始め(写真1,2)』から皮の選別、仮張り、本張りとすべての工程に手をかけ、ようやく完成した思い入れの深い太鼓です。しかも非常に原木の素性が良く、大太鼓の胴を抜いた余材から2尺6寸の子太鼓、さらに1尺5寸の孫太鼓まで製作できたことは、予想外の幸いでした。

 これらの太鼓は8月に行われた『アース・セレブレーション』で初舞台を踏み、私も自分の耳でその音色を確かめました。しかし、舞台芸能の楽器として使われる以上、なんとしても気になるのが、劇場という舞台空間での音の響きです。そこで劇場公演としては初舞台となった鼓童の12月公演の最終ラウンド、『文京シビックホール大ホール』での東京公演に、製作にかかわった社員たちとともにお邪魔しました。

 開演時間が近づくにつれ、この巨大なホールにどんな響きがどう伝わるのか、我にもなく緊張が高まり、耳の奥に「ドクドク」と血の脈打つ音が聞こえてきます。そしていよいよ開演。暗転した舞台の中央で、徐々にスポットライトに浮かび上がる大太鼓に、藤本吉利氏がゆっくりと最初の一撃を振るいます。「ドーン」。ずしんと芯のある音が表革から裏革に突き抜け、余韻が美しいスロープを描いて収束していくのを聴きながら、私の脳裏には太鼓の胴の中で起こっている風景が見えました。強烈な革の振動により胴の中に倍音が高じ、内壁にほどこした扇状波動彫りの稜線の一つ一つに、転がるように音圧がこだましていく様子が。それを確認した時、私はこれで本当に鼓童の大太鼓製作が完了したことを実感したのでした。近来稀に見るケヤキの巨木に出会い、生涯忘れ得ぬ良い仕事をさせていただいたことに感謝をしつつ、帰途についた一日でした。